東京地方裁判所 平成10年(ワ)15972号 判決 1999年3月29日
東京都千代田区有楽町二丁目一〇番一号
原告
ケェイアンドケイ株式会社
右代表者代表取締役
中村花都美
右訴訟代理人弁護士
加藤貞晴
東京都渋谷区笹塚一丁目五〇番一号
笹塚NAビルディング
被告
マイクロソフト株式会社
右代表者代表取締役
成毛真
右訴訟代理人弁護士
田中克郎
同
宮川美津子
同
長坂省
同
五十嵐敦
同
小林卓泰
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 被告は、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成一〇年七月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告に対し、東京都内で発行する「朝日新聞」「読売新聞」「毎日新聞」「日本経済新聞」の全国版の各新聞、被告のホームページ、雑誌「日経パソコン」「朝日パソコン」「週刊アスキー」「PC Fan」「特選街」に、別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を、右各新聞紙においてはそれぞれ半二段、右各雑誌においては一頁の大きさで、表題は二号活字、原被告名は四号活字、その他はすべて五号活字を使用して、掲載せよ。
第二 事案の概要
本件は、商標権を有する原告が被告に対し、「システムダイアリー」という標章(以下「被告標章」という。)を使用した被告の行為は、商標権を侵害すると主張して、損害賠償の支払と謝罪広告の掲載を請求した事案である。
一 前堤となる事実(証拠を示した事実を除き、当事者間に争いはない。)
1 商標権
原告は、以下の商標権(以下、あわせて「本件商標権」といい、その登録商標をあわせて「本件登録商標」という。)を有する。
<1> 登録番号 第九七六九八四号
出願日 昭和四三年一二月二日
登録日 昭和四七年八月二二日
更新登録日 昭和五八年一月二七日
更新登録日 平成五年二月二五日
指定商品 旧第二五類 日記欄つき手帳
登録商標 別紙商標目録一記載のとおり
<2> 登録番号 第九七六九八五号
出願日 昭和四三年一二月二日
登録日 昭和四七年八月二二日
更新登録日 昭和五八年一月二七日
更新登録日 平成五年二月二五日
指定商品 旧第二五類 日記欄つき手帳
登録商標 別紙商標目録二記載のとおり
2 被告の行為
被告は、インターネットのホームページに、「マイクロソフトが、Windows NT(R) Workstasion Version 4・0発売一周年100万ライセンス突破記念キャンペーンを実施中。アンケートに答えると抽選で、ジュラルミンアタッシュケース、高級本革製システムダイアリーなどが当たる。」と掲載した(甲五)。
二 争点
1 被告の行為は、本件商標権を侵害するか。
(原告の主張)
被告の行為は、商品に関する広告に本件登録商標と同一又は類似の被告標章を付して展示したものであり、本件商標権を侵害する。
(被告の反論)
(一) 被告の行為は、次のとおり、商標法上の「商品に関する広告」に該当しない。
原告が「商品」であると指摘するダイアリーは、キャンペーンの一環として無償でプレゼントされたものであり、「独立の商取引の対象」ではなく、商標法上の「商品」には当たらない。
また、本件告知は、キャンペーンを告知するためのものであり、商品の広告ではない。したがって、被告の行為は「商品に関する広告」には該当しない。
(二) 本件における被告標章の使用は、商標としての使用ではない。
自他商品識別機能を有しない態様での商標の使用については、商標権の効力は及ばない。被告標章は、「多機能で取り外し可能なダイァリー」という意味で用いられており、商品の性質を説明する態様で使用されているに過ぎず、特定の商品を識別する態様で使用されているものではない。
2 被告標章には、商標法二六条一項二号により、商標権の効力が及ばないか。
(被告の主張)
「システムダイアリー」という語は、多機能型の取り外し可能なダイアリーを意味する普通名称である。被告標章の使用は、普通名称を普通に用いられる方法で表示したものであるから、本件商標権の効力は及ばない。
(原告の反論)
被告の主張は争う。
3 損害賠償及び謝罪広告
(原告の主張)
被告の行為により、原告は少なくとも一〇〇万円に相当する信用毀損による損害を被った。また、原告は、被告の行為により、金銭賠償のみによっては補填し得ない損害を被ったので、信用回復措置として、謝罪広告を求める。
(被告の反論)
原告の主張は争う。
第三 争点に対する判断
一 争点1(本件商標権の侵害)について
1 前記第二、一2、甲五ないし七号証及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められ、これに反する証拠はない。
(一) 「システム」とは、複数の要素が有機的に関係し合い、全体としてまとまった機能を発揮している要素の集合体、組織、系統の趣旨であると解され、また、「ダイアリー」とは、日記帳、日誌を意味する言葉であると解される。そして、今日、取り外し可能な機能的な手帳である「システム手帳」が広く普及していることも考慮すると、右二つの語が結合された「システムダイアリー」という語は、一般人に、取り外し可能な機能的な日記帳や日誌を意味する言葉として認識されるものと解される。
(二) 被告は、インターネットのホームページ上に、Windows NT(R) Workstation Version 4・0 発売一周年100万ライセンス突破記念キャンペーンの一環として、アンケートに答えて、抽選に当たった者に対して、KNOX TRANSPORT社の日本製「NOXBRAIN」という商品名の皮革カバー製手帳を贈呈する意図の下に、以下の告知をした。
「マイクロソフトが、Windows NT(R) Workstasion Version 4・0 発売一周年100万ライセンス突破記念キャンペーンを実施中。アンケートに答えると抽選で、ジュラルミンアタッシュケース、高級本革製システムダイアリーなどが当たる。」
(三) 被告は、同じホームページ上に、記念キャンペーンに関する情報として、右告知のほかに、
「●提供:マイクロソフト社
●賞品:
1stPRIZE:PROTEX EXPERT=ジュテルミンアタッシュケース/毎月3名
2ndPRIZE:高級本革製システムダイアリー/毎月5名
3rdPRIZE:本革製オリジナル名刺入れ/パスケース/毎月500名」
という掲示をした。
2 右認定した事実を前提として以下検討する。
商標法は、標章の使用について、「商品の広告に標章を付して展示する行為」が含まれる旨を定めている(二条三項七号)。ところで、商品の広告に標章を付する行為とは、およそ商品の広告に標章を付する行為態様のすべてを含む趣旨に解すべきではなく、標章を特定の商品を識別する目的で用いる場合に限られるものと解すのが相当である。
本件についてこれを見ると、「システムダイアリー」という語は、一般に、取り外し可能な機能的な日記帳や日誌を意味する言葉として認識され、必ずしも、特定の商品を意味するものと解されていないこと、他の賞品については「ジュラルミンアタッシュケース」や「本革製オリジナル名刺入れ/パスケース」のように一般名称が用いられ、これとの対比から「高級本革製システムダイアリー」も同様に一般名称の趣旨と理解するのが相当であること、その他本件告知の趣旨等を総合考慮すると、本件告知において、「高級本革製システムダイアリー」という語は、「高級な、本革製の、取り外し可能な機能的な日記帳や日誌」という商品の一般名称を指すものとして使用されていることが明らかである。
そうすると、被告の被告標章の使用態様は、特定の商品を識別するために標章を用いたもの、すなわち、出所表示機能を有する態様での商標を使用したものと認めることはできない。
したがって、被告の行為は本件商標権に対する侵害行為には当たらない。
二 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないので、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 沖中康人)
商標目録一
<省略>
商標目録二
<省略>
謝罪広告目録
謝罪文
このたび貴社の登録商標と同一ないし類似の商標「システムダイアリー」を平成九年一二月から平成一〇年一月にかけて弊社のホームページにおいて貴社に無断で使用し、これにより貴社の商標権を侵害し、貴社に多大なる迷惑をかけたことを深くお詫び致します。
知的財産権管理に細心の注意を払って、自社の商標権の侵害行為に対しては断固たる態度で臨む弊社が、貴社の登録商標の調査を怠ったことについて深くお詫び致します。
マイクロソフト株式会社
ケェイアンドケイ株式会社 殿